へんてこブログ

適当に書く予定

チェーンストア理論から見る転売屋の儲け方

ここ数年、Twitterを漁っているとフリマアプリなどのネットを介する市場での悪質な転売についてのツイートをよく見かけるようになった。特によく見かけるのが、任天堂から発売された家庭用ゲーム機Switchの高額転売などで、とにかく今話題の商品をとんでもないボッタクリ価格で転売している件が多い。ただ、この転売に関していつも「儲かってるの?」という疑問がある。

そこで、この悪質な転売ビジネスをチェーンストア理論から分析して効率的に儲かっているのかを考察していく。

 

そもそもチェーンストアとは1店舗では到底提供できないサービスを店舗を連鎖して増やすことで可能にし、国民の生活を豊かにすることを意味している。そのために、作業を科学的に分析し、標準化された作業を行い、なるべく例外処理を減らして効率的に運営していく経営が必要となってくる。これがチェーンストア理論の大前提となる。

他方で、悪質な転売屋を定義するならば、定価販売されている商品をほぼ独占的に買い取って高値で販売することで利潤の最大化を図ることとしよう。またこのような転売ビジネスを調べていくと副業として流行っているようでなんなら主婦のこづかい稼ぎみたいな紹介もあってかなり驚いた。要するに、悪質な転売屋は私腹を肥やすための自己中心的なやり口だと言ってもよいだろう。

 

さて、チェーンストアでも転売屋でも利潤を最大化させるにはまずは売上なければ利益はでない。そこで、効率よく売上をとっているかという指標のひとつ「商品回転率」の面から分析してみる。

 

商品回転率を数式で表すと「売上原価/平均原価棚卸額」で表すことができる。この商品回転率を平たく言えば、在庫として存在する商品を年間(月間)で何回転させているかという指標のこと。つまり、商品回転率が高ければ高いほど在庫の商品の入れ替わりが激しくどんどん売れていると考えられる。

チェーンストア理論ではこの商品回転率をどのように考えているか。先にも書いたように回転率が高ければ高いほど売れていると考えられるので高回転であれば良いと考えがちだが一概にそうとも言えない。その理由として、高回転であるとその分の商品の補充回数が増えてしまい商品管理面でのコストが増加するのでかえって効率的でないからだ。そこで商品回転率はチェーンストアの各フォーマット(食品スーパーやドラッグストア、家電などの分類)の平均値近くの数値で回転させることが効率的であると言われている。

一方、転売屋はチェーンストアよりもかなりの高回転な商品回転を求められると推測できる。もし、副業で転売をはじめたとした場合、在庫スペースを確保しなければならないが、チェーンストアほどバックヤードを確保できないのは容易に想像がつく。つまり、家の中の限られた狭いスペースに在庫を抱えることとなるはずだ。そのような状況で利潤を最大化させるには、この限られたスペースで商品を高回転させなければならない。商品管理面で作業負担が増大してしまい副業ではじめたのにかなりの体力を消耗してしまうことになるはずだ。これでは効率的な運営は難しい。

 

商品回転率から分析したところで、今度はこの適正な商品回転率を維持するために売れる商品の構成を考えなければならないので「商品構成」の面から分析してみる。

 

商品を分類すると売れ筋商品など長期的に売れる定番商品や今流行っているホット商品もあれば、全く売れない死に筋商品などがある。(他にも分類方法はあるのでここでは割愛)

チェーンストア理論では商品構成をユニットコントロールと呼ばれる手法で売れ筋商品やホット商品などの売れる商品を陳列量に比例させることで売上・利潤を最大化させていく。そのため死に筋商品などの売れない商品は撲滅させていき、その分の棚枠を空けていかなければユニットコントロールはうまく機能しなくなり回転率も悪化させてしまう恐れがある。売れない商品は在庫として持つだけ無駄になるのでさっさと売り飛ばしてしまうのが得策となる。さらに、この死に筋商品というのは、需要以上に在庫として持っている売れ筋商品も死に筋商品とも捉えられている。

転売屋はどのような商品構成をしているのだろうか。転売屋の主な商品は、定価よりも高額で売れる商品を中心に構成される。つまりは、流行りの商品、ホット商品が大半となるはずだ。転売屋はこのホット商品を独占するためにいろいろな店舗をまわり大量に購入し高額で転売していくこととなる。しかし、このホット商品というのは大抵はすぐに陳腐化してしまう。例えば、数年前に流行った透明色の飲料がそれにあたる。流行った時は爆発的に売れるが、今、透明色の飲料を当時と同じ陳列量で販売しても売上はあがらないだろう。つい最近ではタピオカ、直近ではマリトッツォやコーヒー抹茶ラテあたりがホット商品と言えるがその大半は衰退していくこととなる。さて、このホット商品、流行りが終わったらどうなるか想像しやすいでしょう。そう、ホット商品は一気に死に筋商品になりうるのだ。需要以上に在庫として持つ商品が死に筋商品となるのはこういうことが理由だ。例を挙げるならば、冒頭にも触れた任天堂Switchなんかは確かにホット商品ではあったが、今秋に新型が発売されることで一気に旧型Switchが陳腐化してしまっている。Twitterでは悪質な転売屋がこの陳腐化したSwitchをどうにかはかそうとして10台まとめ売りをしてるフリマ画像が出回った。転売は商品構成にも問題がありやはり効率的な運営は難しいように思える。

さて、本来死に筋商品が在庫としてあった場合、普通ならすぐにでも消し去りたいので値下げをするなどして売り飛ばすのが基本だが、どうやら転売屋たちはどうしても定価価格付近で売ろうと頑張っているように見受けられる。余談だが、これはおそらく、仕入れた代金を取り戻そうとする損失回避行動が働いていると考えられる。この損失回避行動とは、行動経済学プロスペクト理論によると、同じ大きさの利得と損失がある場合損失が利得よりも強く評価される事が影響していると言われている。

 

転売屋は商品を仕入れるために先に代金を支払い、その損失分を後から高額転売により補いそこで得た利益を元にして次の商品を仕入れる訳だが、これでは仕入スピードには限界が来てしまう。一方でチェーンストア(特に食品などを扱う小売フォーマット)は仕入スピードを早くできる「回転差資金」を利用している。最後にこの「回転差資金」の面から分析してみる。

 

商品を仕入れたとしてもチェーンストアの場合、直ちに支払うのではなく買掛金として一定の支払サイト(期間)がある。しかし手元には仕入れた商品が存在するのでその商品の買掛金支払日よりも前に売上げてしまえば現金化することができる。この現金のことを回転差資金と呼ぶ。この回転差資金は、支払サイトが長く逆に毎日現金等で売上がとれるBtoC企業の特徴的な資金調達方法で、コストをかけることなく調達することが可能な使わない手はない資金だ。多くの食品スーパーはこの回転差資金を利用してスピーディな仕入を行ったり、または店舗開発資金に充てている。しかし、これができるのは回転差資金がプラスであること、つまり出ていくキャッシュよりも入ってくるキャッシュが多くなければ使えない手段でもある。

回転差資金がマイナスになるチェーンストアのフォーマットはいくつかあるが、その一つに中古販売・リサイクルのフォーマットが代表的であろう。これは単純な話で、中古販売・リサイクルの仕入は買取カウンターでの現金取引が多いのでいくら売上ても買取カウンターでの現金取引を上回る販売資産回転を行わなければならないがどうやら大手の中古販売・リサイクルチェーンストアでも回転差資金をプラスにすることは難しい。そう、当然転売屋が回転差資金を使って仕入れることなんてのは不可能に近いのだ。転売屋は地道に売上げた利益と本業で稼いだ資金を元に新たな商品を仕入れなければならない。キャッシュフローの面でみたら出ていく現金ばかりでたとえ利益が出ていたとしても手元に残る現金は少なく、こづかい稼ぎのためにやった副業なのにかえって使える現金が少なくなってしまう本末転倒な有様になっていくはずだ。

 

ここまで悪質な転売屋をチェーンストア理論から分析してまとめてみると、転売行為は商品管理面で作業負担が増大、一気に死に筋商品になりうる在庫を持ち、副業なのにかえって使える現金が少なくなってしまうといった全く効率的に売上も利益も取れない採算の合わないビジネスであることが非常に高いと言えるだろう。

 

 

【参考文献】

渥美俊一『21世紀のチェーンストア理論』実務教育出版

渥美俊一『商品構成』実務教育出版

日本リテイリングセンター『新・流通業のための数字に強くなる本』ダイヤモンド社

友野典男行動経済学 経済は「感情」で動いている』光文社

 

『新・流通業のための数字に強くなる本』と『行動経済学 経済は「感情」で動いている』は面白いので是非興味があれば読んでほしい。